以前、フェルデンクライスのカルチャーを教えていた時、まだフェルデンを習いたての生徒さんにレッスンが終わったときの感じを表現していただいたことがありました。するとある生徒さんから、自分は漢詩が好きで、その中にある明鏡止水という言葉がぴったりだ、と思います、という感想を頂いたことがあります。
その言葉の意味は・・・
くもりのない鏡と、波のない水のように、何のわだかまりもなく澄み切って静かな心の状態、と説明がありました。これは本当に光栄なお言葉をいただいたのだととても嬉しく思いました。
まだフェルデンクライスの存在も知らなかった頃の事です。私は怪我をしてリハビリを受けていたのですが、担当のリハビリ師さんがフェルデンクライスを知っていて、リハビリにフェルデンを混ぜてやってくださっていたのです。ですが私はそれを知らずに受けていたので、なんだか変わったリハビリだなあ、と思っていたのでした。私がそれをフェルデンクライスというものだと知ってからというもの、彼女は個室にこもって私にリハビリと称してフェルデンクライスのレッスンをやり続けました。なぜだったのでしょう・・・。
実はあるレッスン中にある動きをした時に、突然気持ちが静まり返り、楽になるのを感じる瞬間があったのです。当時私はスイスにいました。ご存じの通りスイスは多言語国家。ドイツ語、フランス語、イタリア語、スイスロマーニッシュが話され、英語は公用語に入っていません。私はドイツ語を少し勉強してから行きましたが、スイスのドイツ語はスイスジャーマン。たとえドイツ語を知っていたとしても言葉は大分違い、現地の人との対話は難しかったのです。
大多数のお医者さんは英語なら話せましたが、看護師さんには英語を話せる方はいませんでした。そういうところで怪我をしてしまったのです。医療に関する情報が少なく、医療者との対話は不十分で私の中は常に不安の荒波で一杯でした。
ですがフェルデンクライスのレッスンで気持ちが楽になるのを感じるようになり、レッスンを重ねるようになってからは、不安の荒波がすうっと引き、普段の生活の中でも心の静けさを保てるようになっていったのです。
明鏡止水。当時の私の心の内を表すのにもぴったりな言葉をこの生徒さんは選んでくださいました。ああ、この方はこんな風にフェルデンクライスをとらえていらっしゃるのだ、ということが、この4文字からひしひしと伝わります。今でも私はレッスンのたびごとに生徒さんだけでなく自分も学びを得ているなあ、と思っていますが、この四文字の感想からの学びはその中でもかけがえのないものだったなあ、と忘れることが出来ないでいるのです・・・。