フェルデンクライスメソッド

レッスンの記憶

緑のラインの利いた珍しいデザインのワンピース型ドレス

これもスイス在住時の事です。私たち一家は隣がイタリア人、その次がアルゼンチン人、と三軒が軒を連ねたテラスハウスに住んでいました。
スイスに住んでいるのに三軒とも住人は外国人でした。そう、スイスには国外から移り住んだ人がとても多かったのです。

隣家のイタリア人はドイツ語とイタリア語を話します。アルゼンチン人はスペイン語と英語を、私たちは勿論日本語、そして英語、私のつたないドイツ語。この三軒は言葉は違えど仲が良くて三カ月に一度くらいのペースでホームパーティーをやっていました。
イタリア人とアルゼンチン人はスペイン語とイタリア語の共通部分で対話し、アルゼンチン人と私たちは英語で。問題はイタリア人と私たち。私のつたないドイツ語で対話するか、アルゼンチン人の通訳を介するか。でも何とか楽しいひと時を持つことが出来ていました。

主人の母がスイスに遊びに来た時に、料理の上手なイタリア人の奥さんのピザの講習をしてもらったことがあります。義母は英語が話せないのでまずイタリア人の奥様がイタリア語でレシピを説明。アルゼンチン人との間で笑いが起き、次にアルゼンチン人が私に英語で説明、又笑いが起き、最後に私が義母に日本語で説明、そこでまた笑いが起き、全員そろってもう一度笑い、一つの話題で4回笑いを楽しめるという楽しい講習になりました。

このイタリア人は夫婦そろって自宅で服のデザインをやっていて主に奥様が発案、ご主人がパターンと縫製をやっていました。
ある日の事。イタリア人の奥様が我が家にやってきて、ファッションショーをやることになったので招待したい、という素敵なお誘いをくれました。
それから暫く経つと、彼らの自宅にはショーの打ち合わせなのか美しいモデルさんたちが頻繁に出入りをするようになりました。身近にこんなことを体験できるなどとは考えてもみなかった私達はワクワクドキドキ。ファッションショーに招待されることなど一生に二度どないだろう、とこぞって都心の会場に出かけたのです。

数日後の事です。又玄関のベルが鳴りイタリア人の奥様の姿が。私のつたないドイツ語力で理解するに、ファッションショーでモデルさんが着たドレスが沢山家にある。スイス人には少し細すぎる。貴方にサイズが合うと思うので、家に来て試着しないか、というのです。気に入れば70パーセントOFFで譲るとも・・・。スイス人の体格が日本人より大きいという認識はありませんでしたが、(私のドイツ語力不足かも知れませんね)素敵なドレスを試着できるだけでも、と彼女らの家に出かけました。(といっても、お隣ですから数メートル歩いただけですが)

お宅の地下の作業場には沢山のドレスが掛けてありました。ドレスはハンガーに掛けてあると、モデルさんたちが着ていた様相とは全く違って見えどのモデルさんがどれを着ていたのか、全く記憶がよみがえりません。ですので服屋に行った気分でドレスを選び、試着させて頂きました。
それまで私の好みの色は薔薇色と思っていましたが、緑のラインの利いた珍しいデザインのワンピース型ドレスがあり、着てみると案外様になります。この時から自分には緑色も案外似合うという新たな発見もしました。
幾つか気に入ったものがあったので購入させて頂き、イタリア人のデザインによるスイスのシルク製の世界に二着とない服を購入できた高揚感一杯で帰宅しました。イタリア人ご主人のヌル ファブリーク(布代だけしか出ないよ・・・)というぼやきを後にして。

この話をふと懐かしく思い出しながら、そういえばフェルデンレッスンでレッスン後にファッションショーの時に見たモデル歩きのような歩き方になるレッスンがあったなあ、とかすかに思い出しました。モデル歩きということは、レッスンが終わった時に骨盤がするすると回転し、すごく歩きやすくなったという記憶があります。ですがどのレッスンの結果だったか、思い出せませんでした。

我が家の教室で生徒さんからレッスンを覚えなければ、とかレッスン内容が思い出せない、といった感想を頂くことがありますが、実はフェルデンレッスンはあまり頭に残らないのです。何故ならレッスン中生徒さんは右の脳を使って動きを感じているからです。レッスンの記憶は脳の違う部位を使ってする事。(新しい記憶は海馬。古い記憶は主に大脳皮質で担われます)ですからレッスン中に脳の記憶を司る部位を働かせるのは難しいのです。
私はいつもレッスン中教師の声をかなたに聞き、終わったら何をやっていたのかぼんやりとしか覚えていない感じになります。レッスンを覚えられないとご自分を責められる方も中にはありますが、レッスンは覚えていないほうが自然なのです。
もしあの日のあのレッスンを思い出したいと思われる方は私が記録していますから大丈夫ですよ!!隣家のファッションショーから思い出したこんなお話でした。